大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和33年(レ)610号 判決

控訴人 有限会社相模商事

被控訴人 株式会社名和洋品店

主文

原判決を左の通り変更する。

被控訴人は控訴人に対し金四万百五十八円及び之に対する昭和三十二年六月一日以降完済に至るまで金百円につき一日十銭九厘の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも之を五分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。本判決は控訴人勝訴の部分に限り、控訴人において担保として金一万円を供託するときは、仮に執行することを得

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金五万円及び之に対する昭和三十二年六月一日以降完済に至るまで金百円につき一日十銭九厘の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求める旨申立て、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は控訴代理人において(一)本件借受行為は、商人たる訴外名和晋のなしたものであるから、商法第五百三条第二項に基き、同人の営業の為にするものと推定すべきものである。(二)被控訴会社は右名和が使用していた商号を続用し、同人がなしていたと同一業種の営業を同人と同一店舗で同一の看板のもとに同一の業務担当者たる名和晋により経営しているのであるから、形式的にも実質的にも両者間に営業の譲渡が行われたものであるというべきである。と述べ、被控訴代理人において(一)右控訴人主張事実を否認する。(二)訴外名和晋が被控訴会社設立前名和洋品店の商号で営業していたところ、被控訴会社がその設立と共に、株式会社名和洋品店の商号を使用していることは認めると述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、之を引用する。

立証として控訴代理人は甲第一乃至三号証、同第四号証の一、二同第五号証、同第六、七号証の各一、二を提出し、同第四号証の一、二は被控訴会社店舗の写真であると述べ、当審における証人西村久一郎の証言並びに原審及び当審における控訴会社代表者加藤清高の訊間の結果を援用し、被控訴代理人は原審及び当審における証人名和晋の証言を援用し、甲第二号証中、郵便官署作成部分はその成立を認めるも、その余の部分は不知、同第六、七号証の各一、二は不知、甲第四号証の一、二が被控訴会社店舗の写真であることを認め、爾余の甲号証の成立を認めると述べた。

理由

一、被控訴会社が、昭和三十二年四月十八日、設立され其の登記を経由したこと、訴外名和晋が被控訴会社設立前、名和洋品店の商号を以て営業していたこと並に被控訴会社がその設立と共に株式会社名和洋品店の商号を使用していることは当事者間に争がない。

二、成立に争のない甲第一号証の記載、原審における証人名和晋の証言(後記採用しない部分を除く)及び控訴会社代表者加藤清高の供述、当審における控訴会社代表者加藤清高の供述、同供述により成立の真正を認める甲第六、七号証の各一の各記載を綜合すれば、控訴会社は昭和三十二年二月十二日名和晋に対し、金五万円を弁済期同年三月十二日、期限後の損害金金百円につき一日十銭九厘の定めにて貸付ける旨約し、右一ケ月分の利息等一万五百円を差引いた金三万九千五百円を交付したことその後右名和が弁済期に支払をしなかつたので、控訴会社がその弁済期を二回に亘り猶予した結果、結局その弁済期が同年五月二十日まで猶予されたことを認めるに十分であり、右認定を覆すに足る証拠はない。

而して前記名和の手取額が一ケ月分の利息等一万五百円を差引き金三万九千五百円であつたことは前段認定の通りであるから利息制限法第二条により手取額金三万九千五百円と之に対する同法第一条所定の年二割の割合による一ケ月分の利息金六百五十八円(円以下切捨)との合計金四万百五十八円を元本として消費貸借が成立したものというべきである。

然して原審における証人名和晋の証言(後記採用しない部分を除く)及び控訴会社代表者本人加藤清高の供述を綜合すれば、訴外名和晋が前段認定の金員借受当時、洋品類の販売を業とする商人であつたことを認めるに十分であるから、右名和は営業のため、前示金員を借受けたものと推認するのが相当であり、原審及び当審における証人名和晋の証言中、右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三、前記当事者間に争のない事実と原審及び当審における証人名和晋の証言(前記及び後記採用しない部分を除く)を綜合すれば、訴外名和晋は同人所有にかかる建物を店舗として名和洋品店の商号のもとに、個人営業を以てメリヤス製品、ズボン等洋品類の販売をなしていたところ、昭和三十二年四月十八日に至り、被控訴会社が株式会社名和洋品店の商号で設立登記され、前記名和所有の建物を無償にて使用し、同建物を店舗とし、且つ従前名和が使用していた商品台をも従前通りに使用して、同人と同様洋品類等の販売をなしていること、並びに同人は被控訴会社設立と共に代表取締役に就任し、後日に至り辞任したものの、他の取締役は単に名目のみに止まり、同人のみが従前通り被控新会社設立の当初から実質的には被控訴会社の営業、経営を担当していることを夫々認めるに十分であり、右認定の事実に徴するときは、被控訴会社は、その設立の際、名和晋からその営業の譲渡を受けたものと認めるのが相当であり、原審及び当審における証人名和晋の証言中右認定に反する部分は遽かに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

而して被控訴会社が名和晋の使用して居た「名和洋品店」なる商号に会社の種類を示すべき「株式会社」を附加して商号として居ることは既に認定した通りであり、斯る場合も商法第二十六条一項に所謂商号を続用する場合に該当するものと解するを相当とする。蓋し従前の商号に承継者たることを附加し乃至会社の種類を附加して使用することは、商号の同一性を失はないと解すべきだからである。従つて被控訴会社は商法第二十六条第一項により名和晋の控訴人に対して負担する本件債務を弁済すべき責任あること勿論である。

而して成立に争のない甲第一号証、当審における控訴会社代表者本人加藤清高の供述を綜合すると、控訴会社は昭和三十二年六月八日訴外名和晋の有体動産を差押へ、右動産競売の結果、同年五月二十一日以降右六月八日までの本件貸金に対する遅延損害金の内金として、金百三十円を受取つたことが認められ、右金員が前段認定の元本に対する前段認定の約定利率により計算された同年五月二十一日以降同月末日までの遅延損害金に充たないこと計算上明かであるから、被控訴会社は控訴会社に対して金四万百五十八円及び之に対する同年六月一日以降支払済まで前段認定の約定利率金百円につき一日十銭九厘の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

四、従つて控訴人の本訴請求中、被控訴人に対し金四万百五十八円及び之に対する昭和三十二年六月一日以降完済に至るまで金百円につき一日十銭九厘の割合による金員の支払を求める部分は正当で、その余は失当である。

よつて原判決は以上の認定と異なるものであるから、これが変更を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木忠一 田中宗雄 柏原允)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例